急増するサイバー産業スパイによる知識集約型経済への挑戦
この記事は、フィンランド産業連盟(EK)のチーフポリシーアドバイザーであるMika Susi(ミカ・スシ)氏が、サイバースパイ行為が社会や企業に与える影響を分析し、この問題に対する解決策を提案しています。
ヨーロッパの産業界は、日常の経験から、ヨーロッパの産業界の資産がサイバースペースで絶えず攻撃されていることを知っています。数週間前、ヨーロッパ最大の企業体であるBusinessEurope(英語)は、国家ぐるみのサイバー産業スパイ活動に対する懸念が高まっていると警告しました。EU諸国に対するサイバースパイ活動による損失は拡大し膨大なものになっていると推定されます。ある調査では、毎年ヨーロッパのGDPの1〜2%が失われている可能性があるとしています。問題なのは、継続的で強引な知的財産の窃盗のため、どれだけ多くの雇用、ビジネスチャンス、個人の幸福が失われているかということです。
鉱山を掘り起こしているのは誰か?
昨今、知識とデータが最も重要な天然資源と言われています。私たちの成長と繁栄は、これまでにないほど、膨大なデータの創出と改良に基づいています。私たちの社会を日常的に支える機能の大部分は、膨大な数のさまざまな脆弱性を抱えた複雑なデジタルインフラに依存しています。
多くの法執行機関やセキュリティ当局は、過去数年間にわたって、サイバースペースにおける国家ぐるみの産業スパイが、欧州経済にとってますます深刻な脅威となっていることを公表しています。企業は、歴史上かつてないセキュリティ侵害の拡大を目撃しています。そして一部の国では、産業界や、社会の繁栄基盤がターゲットする大規模なサイバースパイの能力を開発しています。国家の支援を受けたハッカー達は、私たちの築いた知識という鉱山に、サイバーというつるはしを絶えず振りかざし、知識ベースの資本を喰いつくしています。そして問題は縮小するどころか拡大する一方です。私たちは、かつてないほどの世界的な課題の増大に直面しているのです。
長期的な影響を評価する
国際競争において当然で避けられないこの現象の拡大に直面している今、私たちはこれをただ受け入れているだけで良いのでしょうか?これは容認できるような問題なのでしょうか?ビジネス界の観点からすると、答えは「いいえ」です。このような犯罪的で有害な行為は、国際競争の手段として、また、健全なビジネス環境に属しているものとしては決して容認できないことを、ひるむことなく訴える必要があります。
サイバースパイ活動の拡大による影響が最も懸念されるのは、知識集約型社会への長期的な負の効果です。それは現金や利益を失うことだけではなく、それよりはるかに貴重な、人間と知識資本を失うことになるのです。知的財産や企業機密が喪失すると、教育、実務知識、イノベーションに対する、広範にわたる公的および民間投資によって、過去数十年間に生み出された競争力と技術的優位性の一部を失うことになります。
この課題に取り組むことができるのか?
この問題に対する答えは、国家レベルでデジタル要塞化したり、その他の国家主導の対策を強化することではありません。自分たちが準備した夕食のテーブルから脅威アクターが最もおいしい料理を食べてしまうことから防ぐ、共通の対応が必要です。もちろん、少なくとも彼らの手からフォークとナイフを奪うことを常に試みることが重要です。また、夕食に招待して欲しいという人が現れたら、一定のマナーに従う必要があることをはっきりと伝えることが大切です。したがって、さきほどの答えは、技術的防御を堅牢化し、回復力を強化するだけでなく、ポリシーレベルの対応も必要となるということです。
第一に、予防面と罰則面の両方の制度レベルで、サイバースパイに対抗するための強固で開かれた法的根拠を確立することが不可欠です。第二に、BusinessEuropeが最近の声明で述べたように、サイバースペースでの有害な行為を防止するために、外交的および経済的な措置などの非法的措置も講じなければなりません。第三に、これらの対策はすべて、ビジネス界と知識経済を主導する政府との緊密な協力の下で準備および実行されるべきです。
多くの場合、複雑な問題に簡単な解決策はないかもしれませんが、通常は共通の対応と判断を通じて見つけ出すことができるのです。
チーフポリシーアドバイザー
Mika Susi
カテゴリ