AIや群知能が取り組むべき重大な課題
エフセキュアのチーフ・リサーチ・オフィサー(CRO)であるMikko Hypponen (ミッコ・ヒッポネン) は、昨年10月ヘルシンキで開催されたスタットアップ企業向けのイベント「Slush 2019」の講演の中で、人間の脳の仕組みとは異なる考え方を機械学習に適用することによって、AIの活用方法が飛躍的に向上するであろうという考え方を示しました。
機械学習と人工知能はかつてないほどに、急速に進化しています。しかし、いまだにAIに関する議論のほとんどが、Mikkoが「絵にかいたような超人的AI」と呼んでいる、人間のように考えたり、超人的な方法で行動するコンピュータといった「人間の代替」として展開される傾向があります。
「しかし、この考え方は正しい方法ではないかもしれません。もっと良い方法があるはずです」と彼は述べています。
エフセキュアでは、Project Blackfinと呼んでいる新しいプロジェクトを展開しています。このプロジェクトの包括的なテーマは、自然界に見られる集団行動のパターンからインスピレーションを得て、アリのコロニーや魚の群れに似た群知能などの集団知能技術を使用して、分散した自律的な適応型マシンラーニングエージェントの集団を作ることです。そして、プロジェクトの目的は、個々のホストで実行されるこれらのインテリジェントエージェントを開発し、人工知能の可能性を再考することです。
前述の講演で、Mikkoは、この「群知能」を活用して、サイバーセキュリティ対策を改善することを提案しました。
重大な課題
Mikkoは、コンピュータセキュリティを世界規模で取り組むことを、古典的なビデオゲームの「テトリス」に例えています。
「成功すれば、問題を消し去ることができますが、失敗すると、問題を増やすことになってしまします」
サイバーセキュリティの専門家は、「日々、膨大な量の攻撃、マルウェアサンプル、そして侵害と戦わなければなりません」
個人ユーザや企業にとって、大規模で途切れることの無いサイバー犯罪と戦うことは、技術的にも大変困難な挑戦です。
Mikkoは、「Slush 2019」で講演したSpotifyの最高研究開発責任者であるGustav Söderström(グスタフ・セーデルストローム)氏の次の言葉を引用しています。「人工知能をソリューションとして生かそうとするなら重大な課題に注力すべきである。」
そして、サイバーセキュリティこそが「重大な課題」であると主張しています。
群れの集合知の賢さ
エフセキュアは2005年に初めてサイバーセキュリティに機械学習を適用しました。
「私たちはフィンランド人なので、「人工知能」とは呼びませんでした」とMikkoは述べています。「もっとつまらない名前で呼んでいました」
エフセキュアをはじめとするサイバーセキュリティ企業が、これまで一般的に機械学習を使用してきた方法は、膨大な数のエンドポイントから収集されたデータ間の関係を比較して相互に参照するやり方でした。
「新たな群知能機能を使用して、1つのエージェントに知能を与えると、より複雑な行動と能力が出現します。」
彼は、この技術は複数の分野で役立つ可能性があると指摘しています。たとえば、物流、エネルギー、そしてサイバーセキュリティなどの分野です。
「フェデレーテッド ラーニングのようなエージェントベースの学習モデルを組み込みます。これは、1個のエージェントのインテリジェンスだけに留まるものではありません。」
エージェントは、ネットワーク接続を介してデータを交換し、意思決定能力を向上させることが可能です。エージェントがクラウドに接続できる場合は、そこで共有されるデータにより群知能の有効性がさらに向上します。ただし、インターネットアクセスは必須ではありません。マルウェア攻撃などの理由で利用できない場合もあるからです。
「フェデレーテッド ラーニングメカニズムは、ネットワーク接続することで一層効果的になりますが、必須ではありません」とMikkoはコメントしています。「単独でも大丈夫です。接続されればさらに良くなります」
未来のことを考えることができるのは、今
エフセキュアは、既にRapid Detection & Responseサービスに群知能を適用しています。
「このことで、誤警報の送信を阻止しています。」とMikkoは説明します。
サイバーセキュリティ専門家の深刻な人材不足と、ますます高度化する攻撃の絶え間ない脅威を考えると、リソースを現実の差し迫った課題のみに集中させるのに役立つ仕組みはすべて企業にメリットをもたらします。
「群知能はすでに役に立ち始めています。そして、これが数年にわたるプロジェクトの始まりなのです」
Project Blackfinの詳細については、エフセキュアの人工知能研究センターを率いるMatti Aksela(マッティ・アクセラ)によるブログ「革新的なAIサーチプロジェクト『Project Blackfin』 を始動 – ここに至る経緯について」をご覧ください。
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